何 芊慧

GoogleスプレッドシートAI関数活用術:精度と効率を両立する「ハイブリッド・アプローチ」の実践

GoogleスプレッドシートAI関数活用術:精度と効率を両立する「ハイブリッド・アプローチ」の実践サムネイル画像

今日のビジネス環境において、データ分析と意思決定のスピードは、企業の競争力を左右する重要な要素となっています。特に、日々蓄積される大量の非構造化データ(テキストデータなど)の処理は、多くの企業にとって大きな課題です。このような背景の中で、GoogleスプレッドシートのAI関数は、この課題を解決するための強力なツールとして注目されています。

GoogleスプレッドシートのAI関数の日本語対応は、2025年9月23日から順次開始されています。ユーザーのリリース設定によって利用開始のタイミングが異なり、全てのユーザーに行き渡るのは10月中旬ごろになる見込みです。これにより、日本のビジネスシーンにおけるデータ活用の可能性が大きく広がっています。

関連記事:https://workspaceupdates.googleblog.com/2025/09/ai-function-google-sheets-new-languages.html

はじめに:AI関数とハイブリッド・アプローチの必要性

GoogleスプレッドシートのAI関数とは

GoogleスプレッドシートのAI関数は、セルの内部でAI(人工知能)の処理能力を活用し、データ分析や文章処理を可能にする大変便利な機能です。

=AI() 」というシンプルな関数を用いることで、分類、要約、翻訳、データ抽出、予測など、あらゆるテキストベースのタスクを、日本語で記述した指示(プロンプト)に基づいて柔軟に実行することが可能です。

関連記事: スプレッドシートのAI関数とは?できること・使い方・注意点までやさしく解説

AI関数の基本

AI関数は難しそうに見えますが、使い方は非常にシンプルです。まずは以下の手順で、AIが瞬時にテキスト処理を行う様子を体験してみましょう。

1.スプレッドシートを開く:
Googleスプレッドシートの新しいファイルを開きます。

unnamed (94)-1

2.文章を入力:
セル A1 に以下の文章を入力します。

今日の天気は晴れで気分が良いです。週末は友人と美術館に行く予定です。

unnamed (95)-1

3.AI関数(プロンプト)を入力:
セル B1 にA1の文章を要約するようAI関数で指示します。

=AI( "この文章を5文字以内で要約してください",A1)

unnamed (96)-14.結果を確認:

セルB1に「晴れ、美術館」といった要約結果がすぐに表示されます。

unnamed (97)

このように、AI関数「 =AI()」 を活用することで、大量のテキストデータから必要な情報を瞬時に抽出・分類し、業務効率を大幅に向上させることが可能です。たったこれだけで、AIが文章の意味を理解し、指示通りに処理を実行してくれました。

しかし、AIの能力を最大限に引き出すには、単にAIに作業を任せるだけでは不十分です。AIの回答精度は、与える指示やデータの質に大きく依存します。そこで本記事では、人間の知見とAIの処理能力を組み合わせ、継続的に精度を向上させる「ハイブリッド・アプローチ」の実践方法を、具体的な活用シーンと共に解説します。

 

ハイブリッド・アプローチの核心:AIを「育てる」という発想

ハイブリッド・アプローチとは、以下の3つのステップを循環させることで、AIを自社の業務に合わせて最適化していく手法です。

  • 【AIによる一次処理】
    AI関数を使い、定型的なタスク(分類、要約、抽出など)を自動で処理させます。
  • 【人間による評価・修正】
    AIの出力結果を人間がチェックし、修正や評価を加えます。この人間のフィードバックが、AIにとって最も価値のある「学習データ」となります。
  • 【学習済みAIによる高度な処理】
    過去の人間による評価・修正データをAIに読み込ませることで、AIは人間の判断基準を学習します。これにより、AIはより複雑で高精度なタスク(予測、自動評価など)を実行できるようになります。

このサイクルを回すことで、スプレッドシートは単なる表計算ソフトから、自社の業務ナレッジを蓄積・活用するインテリジェントなデータベースへと進化します。

名称_未_設定 (20)

 

活用シーン1:顧客フィードバック分析の効率化

顧客からのフィードバックを分析し、具体的な改善アクションに繋げるプロセスを自動化します。

ワークフローの目標

AIによる一次提案と、それに対する人間の改善案を基に、AIに最終的な改善提案とタスクリストを作成させる。

ステップ詳細

ステップ1:AIによる改善提案(一次)

顧客フィードバック内容(A列)から、考えられる改善提案をAIに出力させます。(B列)

【B2に入力する関数】

=AI("このフィードバックから考えられる具体的な改善提案を1つ挙げて。", A2)

 

A

B

1

顧客フィードバック

改善提案(AI一次)

2

アプリのUIが複雑で、どこに何があるか分からない。

=AI("このフィードバックから考えられる具体的な改善提案を1つ挙げて。", A2)

 

 

ステップ2:人間による改善提案の入力

AIの一次提案を参考に、人間がより具体的で的確な改善案をC列に入力します。これがAIへの「お手本」となります。

ステップ3:AIによる最終改善提案&タスク提示

D列で、A列(元のフィードバック)とC列(人間の改善提案)の両方を参考に、AIに最終的な改善提案と具体的なタスクリストを作成させます。

【D2に入力する関数】

=AI("A2の顧客フィードバックと、それに対するC2の人間の改善提案を基に、最終的な改善提案をまとめ、実行すべき具体的なタスクリストをマークダウン形式で出力してください。", A2, C2)

【実行結果の例】

**最終改善提案**
顧客からの「UIが複雑」というフィードバックと、担当者による具体的な改善案を基に、ユーザー体験を向上させるためのUI改修を実施します。

**タスクリスト**
- [ ] ホーム画面のUIデザイン案を作成
- [ ] 主要機能(例:検索、購入履歴)へのナビゲーションボタンをホーム画面に配置
- [ ] アプリ初回起動時に表示されるチュートリアル機能を開発

【このステップのポイント】

この段階ではまだ「学習」は行いませんが、A列とC列という複数の情報を組み合わせて、より付加価値の高いアウトプットをAIに生成させる点が重要です。

活用シーン2:営業日報分析による成約確率の予測

過去の商談履歴と結果をAIに学習させ、新しい商談の成約確率を予測するモデルを構築します。

ワークフローの目標

人間が入力した過去の「商談結果」データをAIに学習させ、新しい商談メモから成約確率を予測させる。

ステップ詳細

ステップ1:AIによるキーワード抽出

まずは、学習データの準備から行います。

A列の商談メモから、顧客の関心事やニーズを示すキーワードをB列に抽出させます。

ステップ2:人間による最終結果の入力

C列に、その商談が最終的にどうなったか(「成約」「失注」「継続」など)を人間が入力します。このC列のデータが予測モデルの根幹をなす「正解データ」となります。

 

A

B

C

1

商談メモ

顧客の関心事(AI抽出)

最終結果(人間入力)

2

競合のX社と比較検討。価格面を特に気にされていた...

価格、競合比較

失注

3

導入後のサポート体制について質問多数。事例を提示し納得...

サポート体制、導入事例

成約

...

...

...

...

10

納期を来月中にしたいとの強い要望。調整可能と回答...

納期

成約

ステップ3:AIによる成約確率の予測

過去のデータ(ここでは2行目〜10行目)が蓄積された状態で、新しい商談(11行目)の成約確率をD列に予測させます。

【D11に入力する関数】

=AI("A1:C10のリストは、過去の商談メモ、顧客の関心事、そして最終結果の履歴です。この履歴データにおける成功(成約)と失敗(失注)のパターンを学習してください。その上で、新しい商談であるA11の内容から、成約する確率をパーセンテージで予測し、その根拠も簡潔に説明してください。", A1:C11)

【この関数のポイント】

  • 指示の出し方(プロンプト):
    AIに対して、まず「どこからどこまでが学習用の過去データか」を明確に伝えます。その上で、「どのセルが新しく予測したい対象か」を指示することで、AIは役割を正確に理解します。
  • データの渡し方(参照範囲):
    関数に A2:C11 のように、過去のデータと新しい予測対象を含んだ範囲をまとめて渡します。これによりAIは、過去の商談(A列)と結果(C列)の相関関係から「成約に至るパターン」を学習し、そのパターンを新しい商談(A11)に当てはめて確率を算出します。

この仕組みにより、データが蓄積されればされるほど、AIは自社の営業パターンに最適化され、予測精度が向上していきます。営業担当者は、この予測結果を参考にリソース配分を最適化できます。

活用シーン3:採用活動における履歴書スクリーニングの高速化

採用担当者の評価基準(暗黙知)をAIにデータとして学習させ、新たな候補者に対する初期スクリーニング(A/B/C評価)を自動化します。

ワークフローの目標

過去の人事評価データをAIに学習させ、新しい候補者の職務経歴に基づき、自動的に評価(A/B/C判定)させる仕組みを構築します。

ステップ詳細

ステップ1&2:評価データの準備と人間による評価

A列に候補者の職務経歴を入力し、B列でAIにスキルを抽出させます。そして最も重要なステップとして、C列に採用担当者が直接「A評価」「B評価」「C評価」といった評価を入力します。このC列が、AIにとっての「評価基準の教科書」となります。

 

A

B

C

1

職務経歴

スキルセット(AI抽出)

人事評価(人間入力)

2

PM経験3年。Pythonでの分析経験あり...

プロジェクトマネジメント, Python, データ分析

A評価

3

Javaでの開発経験5年。リーダー経験なし...

Java, Web開発

B評価

...

...

...

...

20

営業経験のみ。エンジニアリング経験なし...

営業

C評価

ステップ3:AIによる自動評価

過去の評価データ(2行目~20行目)を基に、新しい候補者(21行目)の評価をD列に自動で行わせます。

【D21に入力する関数】

=AI("A1:C20のリストは、過去の候補者の職務経歴とそれに対する人事評価(A/B/C)の一覧です。この評価基準を学習し、どのような人材を高く評価しているかを分析してください。その上で、新しい候補者であるA21の職務経歴を評価し、A評価・B評価・C評価のいずれかに自動で分類し、評価理由も簡潔に記載してください。", A1:C21)

【この関数のポイント】

プロンプト :
活用シーン2と同様に、まずAIが学習すべき「過去の評価履歴」の範囲(参照範囲)を明確に指示します。これによりAIは、「どのようなスキルセットや経歴がA評価に繋がりやすいか」というパターンを学習します。

参照範囲 :
A1:C21のような範囲をまとめて渡します。とすることで、学習済みの評価基準を新しい候補者A21に適用させることができます。

これにより、採用担当者は大量の応募書類の中から、自社の基準に合致する可能性の高い候補者を効率的に見つけ出すことができます。

まとめ

日本語に対応したGoogleスプレッドシートのAI関数は、正しく使うことで、単なる作業の自動化ツールに留まらず、組織の知識や判断基準を学習し、成長するパートナーとなり得ます。

今回ご紹介した「ハイブリッド・アプローチ」は、AIに一次処理を任せ、人間はより高度な判断や修正に集中し、その結果を再びAIに学習させるという好循環を生み出します。このアプローチを実践することで、AIの精度と業務効率を同時に、そして継続的に向上させることが可能になります。

ぜひ、この記事で紹介した関数を参考に、ご自身の業務にAIを取り入れてみてください。

何 芊慧
何 芊慧
吉積情報株式会社 セールスマーケティング部。AIを活用した新しい挑戦を楽しんでいます!
Google Workspace で始める生成 AI 活用: 選び方から定着まで徹底解説セミナー

14:00-15:00 オンライン

Google Workspace で始める生成 AI 活用: 選び方から定着まで徹底解説セミナー

詳細はこちら

データはすべてドライブへ!Google ドライブ運用まるわかりセミナー

14:00-15:00 オンライン

データはすべてドライブへ!Google ドライブ運用まるわかりセミナー

詳細はこちら

Google Workspace vs. Microsoft 365 徹底比較! ~ Gemini で加速する生成AI時代の働き方~

14:00-15:00 オンライン

Google Workspace vs. Microsoft 365 徹底比較! ~ Gemini で加速する生成AI時代の働き方~

詳細はこちら

非エンジニア歓迎!基礎から活用シーンまで学べる! AppSheet を使った現場 DX 入門セミナー

14:00-15:00 オンライン

非エンジニア歓迎!基礎から活用シーンまで学べる! AppSheet を使った現場 DX 入門セミナー

詳細はこちら

Gemini と NotebookLM でビジネスを加速! ~ Google Workspace との連携で実現する、生産性向上と DX 推進~

14:00-15:00 オンライン

Gemini と NotebookLM でビジネスを加速! ~ Google Workspace との連携で実現する、生産性向上と DX 推進~

詳細はこちら

【Microsoft 365ユーザー必見!】仕事が変わる!実践型Google Workspace×Gemini徹底解説

14:00-15:00 オンライン

【Microsoft 365ユーザー必見!】仕事が変わる!実践型Google Workspace×Gemini徹底解説

詳細はこちら

オンラインセミナー開催中

お申込みはこちらをCheck!

関連する他の記事をよむ