各ツールの概要と特徴
まずは、3つのツールがそれぞれどのような特徴を持っているのかを見ていきましょう。提供元である企業の特色が、ツールの方向性にも大きく影響しています。
Google AppSheet:データから瞬時にアプリを生成するAI活用ツール
Appsheet は2020年1月にGoogleのサービスとなりました。
「データ」を起点にアプリを開発する「データファースト」なノーコードプラットフォームです。最大の特徴は、GoogleスプレッドシートやExcel、データベースといった既存のデータソースに接続するだけで、AIがそのデータの構造(列の名称やデータ型など)を解析し、自動的にアプリの雛形を生成してくれる点です。ユーザーはゼロから画面を作るのではなく、AIが生成したアプリを微調整することで開発を進められます。
主な特徴:
Microsoft Power Apps:Microsoft 365エコシステムの中核を担う高機能ツール
Microsoftが提供するPower Appsは、同社のビジネスアプリケーションプラットフォーム「Power Platform」の中核をなすローコード開発ツールです。単なるアプリ開発に留まらず、業務プロセスの自動化を担う「Power Automate」、データ分析・可視化を行う「Power BI」、AIチャットボットを作成する「Power Virtual Agents」と組み合わせることで、単体のアプリでは実現できない包括的な業務ソリューションを構築できるのが最大の強みです。
主な特徴:
Kintone:チームの協業を促進する国産業務改善プラットフォーム
サイボウズが提供するKintoneは、「脱Excel」や「ペーパーレス化」といった、特に日本の企業が抱える身近な課題解決を得意とする業務改善プラットフォームです。専門知識がなくても、必要な項目(フィールド)をドラッグ&ドロップで配置するだけの簡単な操作で、業務に必要なデータベース型「アプリ」を作成できます。
主な特徴:
料金体系の比較
ツールの選定において、コストは非常に重要な要素です。ここでは各ツールの代表的な料金プランを比較します。(※2025年7月時点の情報です。最新の価格は各公式サイトでご確認ください。)
ツール
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プラン例
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価格(ユーザー/月)
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特徴
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AppSheet
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Core
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$10
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基本機能、Google Workspace連携、オフライン同期など。
ほぼ全てのGoogle Workspace ライセンスにライセンス付帯
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Enterprise Plus
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¥2,080
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高度なセキュリティ、ガバナンス機能、監査ログ、Gemini solutionなど。
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Power Apps
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Premium
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¥2,500
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全てのコネクタ(プレミアムコネクタ含む)、Dataverse利用可、カスタムアプリを無制限に作成・実行可能。
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(Microsoft 365)
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(ライセンスに含む)
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標準コネクタを利用したアプリの実行権。作成やプレミアムコネクタの利用には制限があり、本格利用にはアップグレードが必要。
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Kintone
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ライトコース
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¥1,000
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アプリ数200個まで、スペース数100個まで。プラグインやAPI連携に制限があり、まずはデータベースとしての利用が中心。
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スタンダードコース
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¥1,800
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アプリ数1,000個まで、スペース数500個まで。プラグインや外部サービスとのAPI連携がフルに利用可能で、拡張性が高い。
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ポイント:
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AppSheetは、Google Workspaceユーザーであれば、追加コストを抑えて始められます。データ連携を主軸に、まずはスモールスタートしたい場合に魅力的です。
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Power Appsは、既にMicrosoft 365を契約している場合、ライセンス内で利用できる範囲が広く、コストメリットが大きいです。ただし、Salesforceなどの外部サービスと連携する「プレミアムコネクタ」や、高機能データベース「Dataverse」を利用するには、Premiumプランへのアップグレードが必要になる点を理解しておく必要があります。
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Kintoneは、最低10ユーザーからの契約が必要ですが、分かりやすい2つのコース設定で、手厚い日本語サポートも含まれています。外部連携やカスタマイズを前提とするなら、スタンダードコースが推奨されます。
こんな企業・用途にマッチ!
最後に、ここまでの比較を踏まえ、どのような企業や用途にそれぞれのツールが向いているのかを、より具体的に掘り下げてまとめます。
AppSheetがおすすめな企業
- Google Workspaceを全社で導入している企業
スプレッドシートやドライブをフル活用して、既存のデータを素早くアプリ化し、業務効率を飛躍的に向上させたい場合に最適です。
- 現場作業が中心の企業(建設、製造、運送など)
強力なオフライン機能と、写真や位置情報、バーコードスキャンといった機能を組み合わせることで、現場からのリアルタイムな報告・管理業務を劇的に改善できます。
- まずは手軽に始めたい企業
普段使っているExcelやスプレッドシートから、数クリックでアプリのプロトタイプが作れるため、「ノーコード開発がどのようなものか試してみたい」という最初のステップに最適です。
【活用例】
- 建設現場での安全パトロール報告アプリ
現場監督が電波の届かない地下階で、タブレットのアプリからチェック項目を確認。指摘事項があればその場で写真を撮って添付し、保存します。事務所に戻るとデータが自動で同期され、即座に関係者に是正指示の通知が飛ぶといったフローを構築できます。
- 倉庫での在庫管理・棚卸しアプリ
担当者が商品のバーコードをスキャンすると、現在の在庫数が表示され、入出庫数を入力するだけでスプレッドシートのデータが更新されます。手入力によるミスやタイムラグを削減します。
- 営業担当者の訪問先での商談記録アプリ
顧客訪問後、移動中の電車内などオフライン環境で商談内容や次のアクションをアプリに入力。会社に戻る頃にはチームの共有データベースに情報が反映されています。
Power Appsがおすすめな企業
【活用例】
- Teamsと連携した経費精算・稟議申請ワークフロー
従業員がTeams上のPower Appから領収書の写真をアップロードして経費を申請。するとPower Automateが起動し、上長にTeamsのアダプティブカードで承認依頼が届きます。上長がボタンを押すだけで承認が完了し、経理担当者に通知が行く、という一連の流れを自動化します。
Kintoneがおすすめな企業
- チーム内の情報共有やコミュニケーションを活性化させたい企業
案件やタスクに関するやり取りを、メールやチャットではなくKintoneアプリ上に集約することで、情報の属人化を防ぎ、誰がいつ何をしたのかという経緯が明確になります。これにより、担当者の引き継ぎがスムーズになったり、チーム全体の生産性を高めたりできます。
【活用例】
- コメント機能で進捗を共有する案件管理アプリ
営業担当者が受注確度の高い案件のステータスを更新し、コメント欄で「@営業部長 見積内容についてご相談です」とメンション。通知を受け取った部長は、同じ画面で過去のやり取りや顧客情報を確認しながら的確なアドバイスを返信。全ての情報が一箇所にまとまります。
- 採用候補者の情報を一元管理し、面接官同士で評価を共有する採用管理アプリ
履歴書や職務経歴書、面接の評価などを候補者ごとに一元管理。面接官は他の面接官の評価を参考にしながらコメントを書き込めるため、多角的な視点で採用判断ができます。
- 顧客からの問い合わせ内容と対応履歴を記録・共有するFAQ付き問い合わせ管理アプリ
サポート担当が受けた問い合わせ内容と対応を記録。類似の問い合わせが増えてきたら、その内容を元にFAQアプリを作成・公開することで、自己解決を促し、問い合わせ件数そのものを削減します。
まとめ
本記事では、AppSheet、Power Apps、Kintoneという3つの代表的なノーコード/ローコードツールを比較しました。それぞれのツールの本質は以下のように要約できます。
- AppSheet: 「データ」が主役。
既存のデータをAIの力で素早くアプリ化し、特にオフライン環境でのデータ活用に強みを発揮します。Google環境のユーザーに最適です。
- Power Apps: 「エコシステム」が主役。
Microsoft 365や外部サービスとの連携と拡張性に優れ、複雑な業務プロセス全体を自動化する大規模なソリューション構築に対応できます。
- Kintone: 「人」と「チーム」が主役。
圧倒的な使いやすさとコミュニケーション機能で、現場担当者によるボトムアップ型の継続的な業務改善を促進します。
どのツールが優れているかという絶対的な答えはありません。最も重要なのは、「自社が何を解決したいのか」という目的を明確にし、既存のIT環境、従業員のITリテラシー、そして将来的な拡張性などを総合的に考慮して、最適なツールを選択することです。
これらのツールには無料トライアル期間が設けられています。いきなり全社導入を目指すのではなく、まずは特定の部署で「最も手間のかかっているExcel業務」などを一つ選び出し、それを解決するプロトタイプアプリを試作してみることを強くお勧めします。実際に手を動かしてみることで、初めて見えてくる自社との相性があるはずです。この記事が、その第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。