石見 沙紀

【徹底比較】AppSheet・Power Apps・ Kintone〜最適な業務改善ツールはどれ?~

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デジタルトランスフォーメーション(DX)が叫ばれる現代において、ビジネスの現場では日々業務効率化や生産性向上の必要性に迫られています。その解決策として今、大きな注目を集めているのが「ノーコード/ローコード開発ツール」です。

プログラミングの専門知識を持つエンジニアでなくても、現場の業務担当者が直感的な操作で業務用のアプリケーションを開発できるため、現場主導でのスピーディーな業務改善を実現します。これにより、「市民開発者(Citizen Developer)」が育ち、組織全体のIT活用能力が向上するという戦略的なメリットも生まれます。

しかし、市場には多くのツールが存在し、「どのツールが自社に最適なのか分からない」という声も少なくありません。本記事では、数あるツールの中でも特に代表的な3つ、Googleの「AppSheet」、Microsoftの「Power Apps」、そしてサイボウズの「Kintone」をピックアップし、多角的に比較したいと思います。

この記事を読めば、それぞれのツールの強みと弱み、得意なこと、そして自社の目的、既存のIT環境、従業員のスキルセットに最もマッチするツールがどれなのか、明確になるはずです。

各ツールの概要と特徴

まずは、3つのツールがそれぞれどのような特徴を持っているのかを見ていきましょう。提供元である企業の特色が、ツールの方向性にも大きく影響しています。

Google AppSheet:データから瞬時にアプリを生成するAI活用ツール

Appsheet は2020年1月にGoogleのサービスとなりました。
「データ」を起点にアプリを開発する「データファースト」なノーコードプラットフォームです。最大の特徴は、GoogleスプレッドシートやExcel、データベースといった既存のデータソースに接続するだけで、AIがそのデータの構造(列の名称やデータ型など)を解析し、自動的にアプリの雛形を生成してくれる点です。ユーザーはゼロから画面を作るのではなく、AIが生成したアプリを微調整することで開発を進められます。

主な特徴:

  • Google Workspaceとの強力な連携
    スプレッドシートをデータベースとして、Googleドライブをファイル保管場所として、そしてGmailやGoogleカレンダーを通知やスケジュール機能として活用するなど、日頃から利用しているGoogleのサービスとシームレスに連携します。これにより、データ管理からアプリ運用までを一気通貫で行うことが可能です。

  • インテリジェントな機能
    AIを活用した機能が標準で組み込まれています。例えば、スマートフォンのカメラで請求書や名刺を撮影し、その文字情報を自動でデータ化するOCR機能や、商品のバーコードを読み取って在庫情報を呼び出す機能など、高度な機能を専門知識なしでアプリに実装できます。

  • 強力なオフライン機能
    電波の届かない建設現場や地下施設、移動中の営業担当者など、不安定なネットワーク環境でもアプリの利用が可能です。デバイス内にデータを一時保存し、オンラインに復帰したタイミングでサーバーと自動的に同期するため、場所を選ばず業務を遂行でき、データ入力の機会損失を防ぎます。

  • 多様なデータソース
    Google系のサービスだけでなく、Microsoft 365(Excel Onlineなど)、Box、Salesforce、さらにはオンプレミスのSQLデータベースまで、様々なデータソースに接続できる柔軟性も持ち合わせています。既存の資産を活かしながらアプリ開発を始められる点も大きな魅力です。

Microsoft Power Apps:Microsoft 365エコシステムの中核を担う高機能ツール

Microsoftが提供するPower Appsは、同社のビジネスアプリケーションプラットフォーム「Power Platform」の中核をなすローコード開発ツールです。単なるアプリ開発に留まらず、業務プロセスの自動化を担う「Power Automate」、データ分析・可視化を行う「Power BI」、AIチャットボットを作成する「Power Virtual Agents」と組み合わせることで、単体のアプリでは実現できない包括的な業務ソリューションを構築できるのが最大の強みです。

主な特徴:

  • Microsoft 365との完全な統合
    SharePointリストをデータベースとして、Teams上でアプリを動作させ、Outlookで通知を送るなど、Microsoft製品群との親和性は抜群です。多くの企業で既に導入されているツールを最大限に活用し、ユーザーが普段使い慣れた環境で完結するワークフローを構築できます

  • 2種類のアプリ開発方式
    要件に応じて最適な開発手法を選択できます。一つは、UI/UXを自由にデザインできる「キャンバスアプリ」で、スマートフォン向けの見栄えの良いアプリや、特定の業務に特化した画面を作成するのに向いています。もう一つは、データ構造を基に標準的な画面(一覧、フォーム、ダッシュボード)を自動生成する「モデル駆動型アプリ」で、複雑なデータ構造を持つCRMや案件管理のような、プロセス指向のアプリケーション開発に適しています。

  • 豊富な接続コネクタ
    400種類以上の「コネクタ」が標準で用意されており、SalesforceやTwitter、Dropboxといった社内外の様々なクラウドサービスと簡単にデータを連携させることが可能です。これにより、サイロ化しがちな情報を繋ぎ合わせ、業務の幅を大きく広げることができます。

  • 拡張性の高さ
    ローコードツールでありながら、専門の開発者がコード(JavaScriptなど)を記述して、より複雑で高度な機能を実装することも可能です。最初は現場主導でシンプルに始め、事業の成長や要求の高度化に合わせて情報システム部門が機能拡張を行うなど、企業のフェーズに合わせた柔軟なシステム開発ができます。

Kintone:チームの協業を促進する国産業務改善プラットフォーム

サイボウズが提供するKintoneは、「脱Excel」や「ペーパーレス化」といった、特に日本の企業が抱える身近な課題解決を得意とする業務改善プラットフォームです。専門知識がなくても、必要な項目(フィールド)をドラッグ&ドロップで配置するだけの簡単な操作で、業務に必要なデータベース型「アプリ」を作成できます。

主な特徴:

  • コミュニケーション機能の標準搭載
    作成したアプリには、一つ一つのデータ(レコード)ごとにコメントを書き込めるスレッドが標準で備わっています。例えば、案件管理アプリで特定の案件について「@メンション」を付けて上司に相談したり、日報にフィードバックを書き込んだりと、データとコミュニケーションを完全に一体化できます。これにより、メールや別々のチャットツールを探し回る手間がなくなり、文脈に沿ったスムーズな協業を促進します。

  • 直感的で分かりやすいUI/UX
    ITに不慣れな人でも迷わず使えるように設計された、シンプルで統一感のある画面が特徴です。マニュアルを熟読しなくても感覚的に操作できるため、非エンジニアの従業員が自ら「自分たちの仕事をもっと楽にしよう」と業務改善を進める「市民開発」の文化を醸成しやすい土壌があります。

  • 日本の業務にフィット
    怠管理、交通費申請、稟議書といった日本の商習慣に合わせたサンプルアプリが豊富用意されています。また、パートナー企業が開発した多彩な「プラグイン」(拡張機能)を導入することで、帳票出力やカレンダー連携など、かゆい所に手が届く機能を簡単に追加できます。日本語のサポート体制も手厚く、導入から運用まで安心して進められます。

  • 柔軟なアクセス権管理
    組織や役職、個人の役割に応じて、アプリ全体はもちろん、特定のレコードやフィールド(項目)単位で細かく閲覧・編集・削除の権限を設定できます。これにより、「この項目は部長以上しか見られないようにする」といった、内部統制に配慮したセキュアな運用が可能です。

料金体系の比較

ツールの選定において、コストは非常に重要な要素です。ここでは各ツールの代表的な料金プランを比較します。(※2025年7月時点の情報です。最新の価格は各公式サイトでご確認ください。)

ツール

プラン例

価格(ユーザー/月)

特徴

AppSheet

Core

$10

基本機能、Google Workspace連携、オフライン同期など。

ほぼ全てのGoogle Workspace ライセンスにライセンス付帯

 

Enterprise Plus

¥2,080

高度なセキュリティ、ガバナンス機能、監査ログ、Gemini solutionなど。

Power Apps

Premium

¥2,500

全てのコネクタ(プレミアムコネクタ含む)、Dataverse利用可、カスタムアプリを無制限に作成・実行可能。

 

(Microsoft 365)

(ライセンスに含む)

標準コネクタを利用したアプリの実行権。作成やプレミアムコネクタの利用には制限があり、本格利用にはアップグレードが必要。

Kintone

ライトコース

¥1,000

アプリ数200個まで、スペース数100個まで。プラグインやAPI連携に制限があり、まずはデータベースとしての利用が中心。

 

スタンダードコース

¥1,800

アプリ数1,000個まで、スペース数500個まで。プラグインや外部サービスとのAPI連携がフルに利用可能で、拡張性が高い。

ポイント:

  • AppSheetは、Google Workspaceユーザーであれば、追加コストを抑えて始められます。データ連携を主軸に、まずはスモールスタートしたい場合に魅力的です。

  • Power Appsは、既にMicrosoft 365を契約している場合、ライセンス内で利用できる範囲が広く、コストメリットが大きいです。ただし、Salesforceなどの外部サービスと連携する「プレミアムコネクタ」や、高機能データベース「Dataverse」を利用するには、Premiumプランへのアップグレードが必要になる点を理解しておく必要があります。

  • Kintoneは、最低10ユーザーからの契約が必要ですが、分かりやすい2つのコース設定で、手厚い日本語サポートも含まれています。外部連携やカスタマイズを前提とするなら、スタンダードコースが推奨されます。

こんな企業・用途にマッチ!

最後に、ここまでの比較を踏まえ、どのような企業や用途にそれぞれのツールが向いているのかを、より具体的に掘り下げてまとめます。

AppSheetがおすすめな企業

  • Google Workspaceを全社で導入している企業
    プレッドシートやドライブをフル活用して、既存のデータを素早くアプリ化し、業務効率を飛躍的に向上させたい場合に最適です。
  • 現場作業が中心の企業(建設、製造、運送など)
    力なオフライン機能と、写真や位置情報、バーコードスキャンといった機能を組み合わせることで、現場からのリアルタイムな報告・管理業務を劇的に改善できます。
  • まずは手軽に始めたい企業
    段使っているExcelやスプレッドシートから、数クリックでアプリのプロトタイプが作れるため、「ノーコード開発がどのようなものか試してみたい」という最初のステップに最適です。

【活用例】

  • 建設現場での安全パトロール報告アプリ
    現場監督が電波の届かない地下階で、タブレットのアプリからチェック項目を確認。指摘事項があればその場で写真を撮って添付し、保存します。事務所に戻るとデータが自動で同期され、即座に関係者に是正指示の通知が飛ぶといったフローを構築できます。
  • 倉庫での在庫管理・棚卸しアプリ
    担当者が商品のバーコードをスキャンすると、現在の在庫数が表示され、入出庫数を入力するだけでスプレッドシートのデータが更新されます。手入力によるミスやタイムラグを削減します。
  • 営業担当者の訪問先での商談記録アプリ
    顧客訪問後、移動中の電車内などオフライン環境で商談内容や次のアクションをアプリに入力。会社に戻る頃にはチームの共有データベースに情報が反映されています。

Power Appsがおすすめな企業

  • Microsoft 365を全社で導入している企業
    TeamsやSharePoint、Outlookといった既存の資産を最大限に活かし、ユーザーが日常的に使うツール上で完結するシームレスな業務フローを構築したい場合に第一の選択肢となります。

  • 基幹システムとの連携や高度な自動化を目指す企業
    富なコネクタとPower Automateとの連携により、ERPやCRMといった基幹システムと接続し、企業全体の業務プロセスを自動化するような大規模で統制の取れたソリューション構築が可能です。

  • 情報システム部門が主導してアプリ開発を進める企業
    ローコードでありながら高い拡張性を備えているため、情報システム部門がガバナンス効かせつつ、各部署のニーズに応える高機能なアプリを開発・提供していく体制に向いています。

【活用例】

  • Teamsと連携した経費精算・稟議申請ワークフロー
    従業員がTeams上のPower Appから領収書の写真をアップロードして経費を申請。するとPower Automateが起動し、上長にTeamsのアダプティブカードで承認依頼が届きます。上長がボタンを押すだけで承認が完了し、経理担当者に通知が行く、という一連の流れを自動化します。
  • SharePointリストをデータベースにした社内備品予約・管理アプリ
    社員がプロジェクターや会議室の空き状況をアプリで確認し、予約。使用履歴はSharePointリストに自動で記録されます。

Kintoneがおすすめな企業

  • IT専門部署がない、または非IT部門が業務改善を主導したい企業
    ログラミングの知識がなくても直感的に操作できるため、現場の担当者が「このExcel管理、面倒だな」と感じた時に、自らの手で課題を解決する「自分たちの業務を自分たちで良くしていく」文化を醸成するのに最適です。

  • チーム内の情報共有やコミュニケーションを活性化させたい企業
    件やタスクに関するやり取りを、メールやチャットではなくKintoneアプリ上に集約することで、情報の属人化を防ぎ、誰がいつ何をしたのかという経緯が明確になります。これにより、担当者の引き継ぎがスムーズになったり、チーム全体の生産性を高めたりできます。
  • 日本の商習慣に合った業務アプリを素早く構築したい企業
    客管理、案件管理、日報、問い合わせ管理など、多くの日本企業で共通して発生する業務のテンプレートが豊富で、導入後すぐに活用を開始できます。

【活用例】

  • コメント機能で進捗を共有する案件管理アプリ
    営業担当者が受注確度の高い案件のステータスを更新し、コメント欄で「@営業部長 見積内容についてご相談です」とメンション。通知を受け取った部長は、同じ画面で過去のやり取りや顧客情報を確認しながら的確なアドバイスを返信。全ての情報が一箇所にまとまります。
  • 採用候補者の情報を一元管理し、面接官同士で評価を共有する採用管理アプリ
    履歴書や職務経歴書、面接の評価などを候補者ごとに一元管理。面接官は他の面接官の評価を参考にしながらコメントを書き込めるため、多角的な視点で採用判断ができます。
  • 顧客からの問い合わせ内容と対応履歴を記録・共有するFAQ付き問い合わせ管理アプリ
    サポート担当が受けた問い合わせ内容と対応を記録。類似の問い合わせが増えてきたら、その内容を元にFAQアプリを作成・公開することで、自己解決を促し、問い合わせ件数そのものを削減します。

まとめ

本記事では、AppSheet、Power Apps、Kintoneという3つの代表的なノーコード/ローコードツールを比較しました。それぞれのツールの本質は以下のように要約できます。

  • AppSheet: 「データ」が主役。 
    既存のデータをAIの力で素早くアプリ化し、特にオフライン環境でのデータ活用に強みを発揮します。Google環境のユーザーに最適です。
  • Power Apps: 「エコシステム」が主役。
    Microsoft 365や外部サービスとの連携と拡張性に優れ、複雑な業務プロセス全体を自動化する大規模なソリューション構築に対応できます。
  • Kintone: 「人」と「チーム」が主役。
    圧倒的な使いやすさとコミュニケーション機能で、現場担当者によるボトムアップ型の継続的な業務改善を促進します。

どのツールが優れているかという絶対的な答えはありません。最も重要なのは、「自社が何を解決したいのか」という目的を明確にし、既存のIT環境、従業員のITリテラシー、そして将来的な拡張性などを総合的に考慮して、最適なツールを選択することです。

これらのツールには無料トライアル期間が設けられています。いきなり全社導入を目指すのではなく、まずは特定の部署で「最も手間のかかっているExcel業務」などを一つ選び出し、それを解決するプロトタイプアプリを試作してみることを強くお勧めします。実際に手を動かしてみることで、初めて見えてくる自社との相性があるはずです。この記事が、その第一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。

石見 沙紀
石見 沙紀
吉積情報株式会社 アプリケーション開発部 AppSheet 担当 飲食業界からIT業界へ。IT業界未経験でもできる! AppSheet エバンジェリストになるべく日々活動中です!
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