結論:「Gemini Enterprise」と既存のGeminiの最大の違い
早速ですが、両者の最大の違いを結論からお伝えします。
既存のGemini(Google Workspaceのコアサービス)
目的:
Google Workspace(Gmail, ドキュメント等)内の情報を活用し、アプリ内の業務効率化を支援する「アシスタント」
できること:
メールの下書き、文書の要約、スプレッドシートの操作補助など、 Google Workspaceアプリと連携した情報収集・分析・要約作業 が中心です。
<Geminiアプリ画面イメージ>
- WEB上などの公開情報に加え、組織内のドライブやGmailのデータ収集が可能

- カレンダーに予定を作成するなどの単純なタスクであれば実行可能

参考:Google Workspace with Geminiを完全攻略!機能・セキュリティ・費用を完全解説
参考:特選!Gemini実践ガイド:お客様の声と活用ノウハウ大公開
Gemini Enterprise
目的:
組織全体の情報を連携させ、AIによる業務プロセス全体の自動化を実現する「プラットフォーム」
できること:
- 広範な情報へのアクセス
Googleサービスだけでなく、Microsoft 365やSalesforceなど、社内で利用中の様々なSaaSと接続し、組織の情報を横断的に検索・分析できます。
- 高度な自動化
単に情報を探すだけでなく、複数のAI(エージェント)をオーケストレーション(連携・指揮)させ、「(例)営業データとサポート履歴を分析し、優先対応すべき顧客リストを作成して、担当者にタスクを割り振る」といった複雑なワークフローの自動化が可能です。
分かりやすく例えるなら、既存のGeminiが「優秀な秘書(アシスタント)」だとしたら、Gemini Enterpriseは「複数の部門やツールを束ねてプロジェクトを動かす、組織のAI中枢神経系と言えるでしょう!
なお、Gemini EnterpriseはGoogle Workspaceの追加機能ではなく、Google Cloudサービスの一部として提供されるため、Google Workspaceとは別の契約が必要です。
<Gemini Business画面イメージ>
※Gemini Businessは後述するGemini Enterpriseのプランの一つです。下記画面は、Gemini Businessの無償トライアル画面です。
Gemini EnterpriseはGemini Businessのすべての機能に加えて、より高度なセキュリティ設定などが可能なプランです。
- Googleサービスだけではなく、外部のサービスにも接続が可能


参考:Gemini Enterpriseとは?あらゆる業務ツールと連携可能な企業向けAI活用基盤
【名称に関するご注意】
過去にGoogle Workspaceのアドオンとして「Gemini Enterprise」というアドオンサービスが存在しましたが、今回ご紹介している「Gemini Enterprise」は、それらのGoogle Workspaceアドオンとは全くの別物です。
本記事の「Gemini Enterprise」は、Google Cloudのサービスとして提供される、より広範なAIプラットフォームであるとご認識ください。
IT担当者が注目すべき「Gemini Enterprise」の3つの特徴
「結論」で述べた「プラットフォーム」としてのGemini Enterpriseについて、IT担当者の視点から特に注目すべき3つの特徴を深掘りします。
特徴1:外部サービスとの「連携」と「自動化」
最大の注目点は、やはりその連携範囲です。
既存のGeminiがGoogle Workspace内の連携に留まるのに対し、Gemini Enterpriseは、Microsoft 365やSalesforceなど、すでに社内で利用している他のSaaSとも接続できるように設計されています。
これにより、たとえば「Salesforceの今月の受注データと、Google スプレッドシートの予算データを突合し、達成率を分析して」といった、ツールを横断した情報検索や分析が可能になる可能性があります。
さらに強力なのが、単に繋がるだけでなく、それらを連携させてワークフローを自動化(オーケストレーション)できる点です。
これはまさに、Gemini Enterpriseが組織の「AI中枢神経系」と呼ばれる所以です。Google WorkspaceもMicrosoft 365も、組織にとっては「手足」の一つに過ぎません。Gemini Enterpriseは、それら全体に指示を出し、連動させる「頭脳」の役割を担うことができます。
特徴2:企業規模に応じた2つのプラン
Gemini Enterpriseの契約には、大きく2つのプランが用意されています。
Gemini Business:
- アカウント上限:
300アカウントまで
- 価格:
21ドル/月
Gemini Enterprise:
- アカウント上限:
なし
- 価格:
スタンダードプランで30ドル/月~
まずは一部門や中小企業でスモールスタートしたい場合は「Business」が選択肢になりますが、300アカウントを超える全社的な導入を目指す場合は「Enterprise」が必須となります。
特徴3:より厳格なセキュリティ(Enterpriseプラン)
Enterpriseプランを選択するもう一つの重要な理由が、セキュリティです。
「Gemini Enterprise」プランでは、Businessプランの全機能に加え、「より厳格なセキュリティ」が提供されるとされています。
SaaSの導入においてセキュリティ要件はIT部門にとって最重要事項の一つです。
全社的なデータ(Microsoft 365やSalesforceのデータも含む)をAIプラットフォームに接続することを考慮すると、この「より厳格なセキュリティ」が具体的にどのような内容(データガバナンス、アクセス制御、監査ログなど)を指すのかは、導入検討時に詳細を確認すべき重要なポイントとなりそうです。
参考:Gemini Business ヘルプ
参考:Gemini Enterprise ドキュメント
導入検討のポイント:自社に必要なのはどちらか?
ここまで解説してきた特徴を踏まえ、IT担当者として、自社にどちらのGeminiが必要かを判断するポイントを整理します。
既存の「Gemini(Google Workspaceのコアサービス)」で十分なケース
- 目的:
あくまでGoogle Workspace(Gmail,ドキュメント,スプレッドシート等)のアプリ内での業務効率化を最優先したい。
- 利用範囲:
利用者が主にGoogle Workspaceの機能を使っており、外部SaaSとの連携ニーズが低い。
「Gemini Enterprise」を検討すべきケース
- 目的:
Google Workspaceだけでなく、Microsoft 365やSalesforceなど、外部SaaSも含めた全社的なAI活用を進めたい。
- 自動化レベル:
複数のツールをまたいだ複雑なワークフローの自動化(オーケストレーション)を実現したい。
- 規模:
300アカウントを超える規模での導入を検討している。
- セキュリティ:
全社のデータを接続するため、より厳格なセキュリティ要件が求められる。
特に、すでに社内で複数のSaaSを利用しており、データの散在に課題を感じている場合、Gemini Enterpriseは強力な解決策となり得ます。
まとめ
今回は、新しく発表された「Gemini Enterprise」について、既存のGoogle WorkspaceのGeminiとの違いを中心に解説しました。
重要なポイントは、「Gemini Enterprise」は単なるWorkspaceの機能拡張(アシスタント)ではなく、Microsoft製品なども含めた組織全体のSaaSを束ね、ワークフローを自動化する 「AI中枢神経系」として機能する「プラットフォーム」である、という点です。
Google Workspaceを利用中のIT担当者の皆様も、これを機に「自社の業務効率化」という視点だけでなく、「自社のAI戦略」という、より大きな視点で、このGemini Enterpriseがどのような役割を果たせるか、情報収集を始めてみてはいかがでしょうか。